〈17年目のデザイナー夫婦座談会 ②〉デザイナーができることって何? 2024.10.29

テトラトーン設立17年目を期に、これまでを振り返るデザイナー夫婦座談会を開催。前回の続き「デザイナーができること」について話し合います。

〈 前回あげたデザイナーのできること 〉
・物事を客観視して気づいていない本質を発見する
・何をどう伝えるか整理整頓する
・言語化・視覚化して道筋を示す
・魅力や価値を具現化する

◎物事を客観視して気づいていない本質を発見する

代表 星野崇(以下た):美術やデザインを学ぶ人がどうして「デッサン」「平面」「立体」の基礎訓練をするか考えたことはある?

デザイナー 星野さやか(以下さ):普通に考えると上手く作れるようになるため…じゃない?

た:僕も受験の時は上手く描けるようになることしか考えていなかったけど、実際は「観察」から「表現」までの一連の処理能力を鍛えるためだと思うんだ。

さ:というと?

た:例えば石膏デッサンは、表面的な顔立ちやポーズだけでなく、骨格や筋肉の構造まで注意深く観察しないと正しく描けないし、静物デッサンでは、陶器、縄、ガラス、植物など、様々な素材を描き分ける必要がある。

その目的は、形はもちろん、それぞれの質感、光の反射や透過、硬さ、柔らかさ、重さなどの性質、構造などを観察して、ガラスはガラスらしく、縄は縄らしく、構造物はその内部構造まで、なぜそう見えるのかを理解した上でアウトプットできるようになるためだと思うんだ。

「デザイナー」という言葉の領域も複雑化しているから一概には言えないけど、自分の思うデザイナーの能力は、物事の「観察ー分析ー発見ー定義ー設計ー表現…」の連続で実行されていて、それを自然に発揮できるようにするのが、美術系の基礎訓練。

もしかしたら身につけ方は色々あって、それらを経ないで獲得できる人もいるかもしれないけど、最適なのがデッサンで、自ずと対象物を仔細に観察して分析するクセがついてくる。訓練された観察対象への「気づく力」が、デザイナーの能力のひとつだと思うな。

さ:ただ描くことを極める目的ではなく、デザイナーに必要な「クセづけ」の訓練にもなっているんだね。

た:観察力が高まると、クライアントとのコミュニケーションの中から、クライアント自身が気が付かない重要なポイントや課題に気がついたり、そこから次の一歩へのきっかけを発見したりもできる。それはデザイナーである限りは、一生磨き続けなければいけないスキルだとも思うよ。

もう一つ「客観視」という点では、デザイナーは常に「伝える相手・見る側」の視点で物事を考えてるってことかな。

さ:基礎訓練の話で言うと、「平面構成」でよくやる〈熱く見えるような平面構成をしなさい〉とか〈冷たく見えるような平面構成をしなさい〉とかが、伝える相手を意識した初歩的なアプローチになるのかな?

た:そうだね。相手に〈熱い/冷たい〉などの狙った印象を持たせるにはどうすればいいか…常に見る側の視点に立って物事を考えるから、クライアント自身では見えていないメリットや本質が、ユーザーの立場でどう見えるのかという視点で発見しやすい。

さ:「客観視して気づける目」をクライアントのために活かすのが、私たちのできることの一つなんだね。

◎何をどう伝えるか整理整頓する

た:クライアントによって、伝えたいことはバラバラとあるけれど、どうまとめていいかわからない…というケースはよくある。

さ:そんな時はデザイナーに加わってもらうといいかも。

た:特にWEBサイトでは膨大な情報を扱うから、どう分類してどういう優先度や配分、順序で見せるとユーザーに伝わりやすいかを設計するのはデザイナーの役割だよね。リチャード・ワーマンの本とか、先生に読まされたなぁ…。

WEBじゃなくても、こと「どう伝えるか」を考える部分では、冗長な部分をまとめたり、逆に言葉足らずの部分を補足したり、キャッチーに言葉を立てたり、テキストとビジュアルの使い分けなど、ユーザーに伝わりやすい形を追求する部分でデザイナーのスキルは十分発揮されると思う。

さ:色々決まっていないと、依頼できないと思ってしまうかもしれないけど、そんなことはない。

た:まぁ、やればやるほど、時間も手間もかかるのだけどね。
あとは伝えたいこと自体が見えていない、わかっていないケースもあるよね。「製品やサービスはあるけど、何を伝えればいいんでしょうか…?」っていう。

さ:そういうケースでも対応はできるよね。

た:その場合でも、モヤモヤとした断片的な言葉や情報を整理して、まずはこんなことを伝えるのがいいのでは?という方向性を示す言葉やイメージのコンセプトを創造することはできるよね。コンセプトが決まると、大枠の流れや構成を設計できたりするから、情報整理から始めると次のステップにスムーズに進めることが多いと思うよ。

デザイナーは頭の中のイメージや概念を言葉としてアウトプットすることに長けているから、お客さんからヒアリングしたとりとめのない「こんな感じ」を整理し、より最短でクライアント自身やユーザーに伝わる形に整頓してくれると思う。

◎言語化・視覚化して道筋を示す

た:情報整理の部分で少し挙げたけど、お客さんがユーザーに伝えたいことは、モヤモヤして明確になっていないことが多い。「何をどう伝えればいいか」がはっきりしていない段階。
その時、私たちデザイナーはお客さんからヒアリングした「大事なこと」「目指したいもの」「やりたいこと」「感じて欲しいこと」などから、それらを表現する言葉は何か?イメージは何か?を様々な方向から検討し具体化することができる。

さ:ヒアリングを経てデザイナーが提示した簡単な言葉やイメージが、プロジェクトをドライブさせるきっかけになるという経験もいっぱいしているよね。

た:そこで大切になるのは、やはり「想像力」だと思う。
不確定で見えないものは、誰も、プロジェクトメンバーも、想像も共有もできない。そんな時にデザイナーは、見えないものを想像力を駆使して、誰もが認識できる「言葉」や「イメージ」に変換し、課題解決のきっかけや共有可能なビジョンを示し、同じ方向に向かわせる道標を生み出すことができる。

さ:そのやりとりこそ、私たちが専門とするビジュアルコミュニケーションだよね。
方向性に迷った時は、デザイナーに聞いてみる!

た:想像力を絶やさないためには、入れられる引き出しがいっぱい必要だから、常にインプットを心がけないとね。戒めとして言っておきたい。

◎魅力や価値を具現化する

た:これは、皆さんがイメージしやすいデザイナー像。色やカタチを駆使して、対象の魅力や価値が伝わるように具現化すること。僕たちが関わるケースで言うと、多くの場合はWEBサイトやロゴ、印刷物などのアウトプットになる。

ただ最近では、いつ、どうやって、どのような心情でその価値に触れるのか、タッチポイントや体験設計まで範疇に入ってきているから、画をひとつ作るだけではなく、「トータルでの世界観(らしさ)構築」のほうがより現代的かな。

さ:そうなるとデザイナーの守備範囲は無限に増えちゃうから、悩ましいよね…。

た:具現化したものが魅力的か、美的に感じるか、自身の価値観に合うかは、人によって違うから、何を持って高クオリティとするかはケース次第だけど、世の中にはまだまだ単純にクオリティが低いものや、魅力を伝えられてないものも多いと思うんだ。

さ:単純に見た目や作りがしっかりしているだけでも、安心や信頼に繋がる時はあるものね。粗雑だったり、手入れが行き届いていないものは、それだけで信頼感をなくしちゃう。

た:だから頭でっかちに「世界観(らしさ)を構築しなきゃ!」から入らなくても、まずは現状使用しているWEBや印刷物のクオリティを一定の水準まで引き上げるだけでも、ユーザーの信頼感を底上げすることはできると思うんだよね。
ただその際に、実際の製品やサービスの実態と、アウトプットのクオリティの釣り合いが取れていないと嘘になるから、製品やサービスに伝えるだけの魅力が見出せることが前提になるけどね。

さ:私たちが何かネットで調べるときも、WEBサイトがしっかり作られていると「ちゃんとしてそう」と思うし、そこが古臭かったり酷い出来だと「この会社は大丈夫か…?」と不安になるから、どこからクオリティアップを目指すかを明確にして、段階的にステップアップしていくといいかもね。

た:僕たちの仕事内容としては、「魅力や価値の具現化」だけのご依頼ももちろんあるのだけれど、「本質の発見」から関わることもあれば、「情報整理から具現化まで」のこともある。最近増えてきているトータルで関わるケースが、だんだんと「ブランド作り」という形になってきているよね。らしさの言語化や一貫した世界観の構築など、関わる深度が深くなったことで、よりデザインする意義や役割について真剣に向き合うことが多くなった気がするよ。

さ:その辺は今後もどんどん伸ばしていきたいよね。

テトラトーンの得意・苦手

た:今はアパレル系、教育系、医療系、健康系、ペット系、レシピ系、などなど様々なジャンルに関わっているよね。特定の分野に特化していることはないし、苦手なものがあるわけではない。前職の経験があるから、WEB制作の割合は多めかな。イラストも得意だから自分で描いたりもするし。
とはいえ、気質としてあえて一点挙げるとすると…

さ:エンタメ感強めの案件は向いてない…のでは?

た:わかっていらっしゃる。良くも悪くも「ノリで〜…雰囲気で〜…目立ちたくて〜…俺たち今頑張っているよな!イェー」みたいなグルーヴ感を求められるのはぶっちゃけ苦手…。これまでの実績が示していると思うけど。
誠実に、真摯に、きちんと作るものに向き合って、コツコツと継続的に積み上げていく…というクライアントさんや案件の方が自分たちの価値観と親和性が高いと思うんだ。それで段々とビジネスとそのデザインが社会に根付いていくような。

今お付き合いのあるクライアントもほとんどがそのような方々だし。自分たちは少人数が故に、全部丸投げでおまかせっていう対応に向いている会社じゃないので、「一緒に考えましょう!」というスタンスの方々とご一緒できるとうれしいかな。

これから

た:やりがいを感じるのは、自分たちの日常生活に密接に関わってくるものかなぁ。生活や子供達のよりよい未来に何か貢献できそうとか、公共のものとか。

あとは一貫したブランド作りのお手伝いをもっとしていきたいかな。大手向けの大掛かりなリサーチやマーケティングを前提にしたブランディングは自分たちだけのマンパワーでは賄いきれないけど、もう少しフットワークよく“らしさ”を設計して貢献できることってあると思うんだよね。

ブランディングは範囲と深度によって膨大な手間と時間がかかるものではあることは重々承知している。でも中小とかスタートアップのクライアントにとっては、不確定なことが多いタイミングで全てを決め込んで網羅することはできないけど、ここまでは考え準備した上でいいスタートを切りたいという範囲があると思うんだよね。

そういう時に「ちょうど良い」「いい塩梅」のブランディングみたいな。そして一緒に寄り添って育てていくようなスタンスで。だんだんとそういう仕事も手がけられているから、その分野はもっと学びも経験値も増やしていきたいな。

さ:モノや情報で溢れている時代だからこそ、一過的ではなく、何か本質的な価値のある物やサービスの発展に貢献したいよね。

た:デザイナーがお役に立てる部分は、まだまだ知られていないと感じていますので、この紹介で気になった方は、ぜひお問い合わせフォームからお声がけください!!