〈17年目のデザイナー夫婦座談会 ①〉テトラトーンって? 2024.10.24

代表 星野崇(以下た):ホームページもリニューアルしたし、ロゴも変えて、17年目に突入したので、このタイミングで一度、私たちテトラトーンをより詳しく知ってもらうための紹介をしていこうと思うよ。

デザイナー 星野さやか(以下さ):私たちの簡単なプロフィールはaboutを見てもらうとして。やっていることも設立当初とは少しづつ変わってきているしね。

テトラトーン設立まで

た:僕たちは同じ制作会社の出身で、そこは入社時は40名弱、その後100名規模くらいに成長した、プロデューサー、ディレクター、アートディレクター、デザイナー、コーダー、エンジニア、ライターなど制作に必要なスタッフがすべて揃っているWEB中心のデザイン会社だった。

さ:パンフレット・チラシ・ポスターなどの印刷物、グッズ類、ロゴ制作、映像、編集もやってはいたけど、オンスクリーンメディアのデザインが中心だったね。

た:ちょうどインターネット全盛だったし。
そこでデザイナ〜チーフデザイナー〜アートディレクターとして10年働いた後、独立してテトラトーンを創業した。

さ:独立した理由というと…。

た:所属していた会社は各ポジションにそれぞれ人がいたから、かなり分業化されていて、ありがたくもデザイナーはデザインだけやればいい体制だった。
アサインのされ方も、稼働に空きがある人から埋めていく感じで、「会社という箱に仕事は来る」けれど「自分が必要とされ関わっている」という、直接クライアントの役に立てている実感が薄かったんだよね。

在籍年数が長くなると部下がついて労働時間と責任は増してきて。大手クライアントが多かったのもあるかもしれないけど、人対人じゃなくて会社対会社で、相手が見えない感覚が強かった。
今考えると自分の立ち回り方次第で変えていけることもあったと思うけど、雇われていた当時はそんなことには気づけなかったな。規模は全然違うけど、経営者側になった今なら社長に「あんないい環境を与えてくれてありがとうございます!」と言いたいよ。

あとは、社員が増え続ける中で会社が人材を評価するために、スキルチェックシートを用い出したのがその頃。初めて評価項目のリストを見た時に、「いや、これができるなら会社に雇われてないだろ!」って思って。会社の求める社員像がそれなら、独立しろって言っているのと一緒だな…なんて、生意気にも思ったもので。

さ:実際はいろいろなスキルの人が所属しているのだから、その恩恵はいっぱいあったはずだし、全部一人でできるようになれって意味ではなかっただろうけどね。

た:確かに、できる人はいっぱいいたんだよね。まぁ、今ならわかる若気の至りというか。
そんな理由で会社を飛び出して、コンサルやプログラマを含め4人でテトラトーンを始めようと話していたのだけれど、ご家庭の事情や方向性の違いとか色々あって、あっという間にデザイナー2人体制になってしまった…。

さ:開始早々の挫折…。スタートで思うようにいかないなんてことはよくある話なのかな…?

た:今考えれば、デザイナーだけになったから、自分たちができることはここ!という強みを明確にして活動できたとも言えるかもしれない。想定していたメンバーが揃えば、それはそれで面白い化学反応が起きた可能性があるけど、たらればを言っても仕方ないので、今のテトラトーンがあるのはそのスタートがあったからこそだと考えているよ。

私たちの特徴って?

◎考えることが好きなデザイナー


た:まず私たちの根っこの部分として、筑波大学芸術学群の視覚伝達デザイン出身というのはあるよね。

さ:遠い昔の話だけれど、それは大きいよね。今は「ビジュアルデザイン領域」という学科名に変わっているようだよ。

た:勝手な印象だけど、筑波大芸術学群に集まった人たちの傾向はあると思うんだ。アート・デザイン関係を志してはいるけど、そこそこの学力もあって、私大じゃなくて国立大学を志望して、筑波研究学園都市という都心から微妙に切り離されたちょっと特殊な環境であえて学ぶという。

今では学内にスタバもできて当時の雰囲気とは違うけれど、僕たちがいた頃はもっと田舎くさくて、学生寮の鉄のベッドと扉とか独房か?と思ったし、野犬が学内で群をなしていたり、学園都市から一歩離れると畑だらけで遊ぶ場所もないし、あの環境で鍛えられた面もあるよね。

さ:地方から出てきている人も多くて、みんな結構真面目だった。

た:芸術系だけに個性的な人ももちろんいたけど、地方出身者の穏やかな面もありつつ、一般常識と知性を備えた人が多かったかなぁ。少々コミュ力の低かった自分でも大学生活ができたのは、周りにちゃんとした良い人たちが多かったからだとも思う。

さ:受験勉強と実技の両立は本当に大変だった〜。

た:前の制作会社にも筑波大出身が何人かいたけど、経営陣も筑波大生のことを評価してくれていて。比較的真面目で考えることができる人が多かったから、社員としての信頼度は高かったと思う。

さ:学ぶことは「何事にも考える癖をつける」ことでもあるから、勉強した意義として、大人になっても前向きな学習意欲や思考力がある…と信じたい。

た:そこは間違いなく私たちらしさのひとつだと思う。

さ:良くも悪くも「なぜ?」と物事を掘り下げたくなる癖があるから、お客さんによっては面倒臭がられる場合もあるかも。真剣に考えるからこそなので、そこはご理解いただけるとありがたいよね。

た:ご相談いただく案件も、解決方法がはっきりなくあれこれと考えをめぐらせるもののほうが、ちょっとだけテンション上がる気がする。「やってやろう」って思えるから。本当に無理!なやつはイヤだけれど。

◎経験に基づく広い制作範囲と対応力


た:僕らの頃の美術教育はアナログとデジタルの過渡期で、広告、イラストレーション、シルクスクリーン、オフセット、写植、写真実習、彫刻や色彩構成もやったし、ちょうどインターネットの隆盛が始まったから、WEBや情報デザインまで首を突っ込んだ。それがきっかけでWEB系の制作会社を選んだし、そこでナショナルクライアント中心のWEBサイトや印刷物まで経験できた。

さ:今考えると、暗室での現像や写植、印刷機を手で回すことは、どこで活きているの〜?って感じだけど。

た:少なくとも、アナログ・デジタルデザインのどちらも体験できていることは無駄にならないんじゃないかな。
初期のWEBデザインはもっとグラフィックデザインの延長のようなものが多かったし、Flash全盛期は動きのあるサイトやユーザー操作によるインタラクションデザインも体験できた。CD-Romもまだわずかに残っていたし、アプリのUIデザインも始まった。今では生成AIやノーコードまである。
ロゴや印刷物、パッケージまで含めると、アナログとデジタルを横断したからこそいろいろな引き出しや対応力は身についたと思う。基本的にビジュアルコミュニケーション領域で「考えること」「伝えること」の本質は変わっていないから、メディアやテクノロジーの変化はあっても、思考を巡らし本質を捉えたアウトプットをすることは変わらないと思う。

さ:今は情報もサービスもユーザーニーズに応えて利便性を追求した結果、便利なものが過剰に溢れて、ありとあらゆるものが提供されて、みんながそれに慣れすぎた結果、効率ばかり重視して、手間と時間をかけた取り組みを忌避される傾向にあるよね。

た:でも本来は手間と時間をかけて向き合ったり、回り道をしたからこそ手に入れられる物事もいっぱいあるはず。それを面倒くさがったり無駄と思わないマインドも必要。

インターネットも、スマホも、SNSも、ChatGPTも、時代を変えるテクノロジーによって、半ば強制的に変わるものもあると思うけど、でも社会があって人間がいて、それらを繋ぐコミュニケーションが必要であれば、デザイナーが関わる本質的な部分は普遍なんじゃないかと思うから、時代の変化で右往左往しないで、テクノロジーを上手く活用しつつ地に足をつけて行きたいなと思うよ。

◎デザインをクライアントの事業成長に活かしたい


た:独立後は、さっきも言ったように良くも悪くもデザイナーだけの体制になったから、お客さんへのヒアリングから、企画、進行管理まで、前職ではプロデューサーやディレクターが担当していた職域のところまで、なんでも自分でやるようにシフトして行った。

さ:実地で少しづつ身につけていった感じだね。

た:対応範囲が広って、ヒアリングや打ち合わせから参加するようになると、見た目をデザインする以前の企画段階のちょっとした発言や気付き、アイデアに対して「いいですね!」と言っていただけることが増えたんだ。デザイナーならではのユーザー中心の視点や思考方法、情報整理術は、お客さんにとっては新鮮でわかりやすい解決方法になりうることを少しづつだけど体感していけた。

会社によってはこれって当たり前のことなのだろうけど、作ることだけをやっていたそれまでの自分からしてみると、相手の顔が見えて、それを直接評価してくれるというのは新鮮だったかな。貢献した分だけ、きちんと返ってくるものがあるという。情緒面でも経営面でもね。

そういったことを繰り返すうちに、関わったクライアントのビジネスが成長したり長期的に継続できたりして、もちろんクライアントの企業努力があってこそだけれど、デザインやデザイナーの考え方やアウトプットが、事業において一定の役割を果たすことができるという自信が持てるようになった。

さ:そういった、クライアントに対して「役立てる」ポイントを具体的に挙げるとどう言えばいいんだろう。私たちの職能とも言えると思うけど。

た:これまでの経験からくる体感を言葉としてまとめると、

⚫︎ 物事を客観視して気づいていない本質を発見する
⚫︎ 何をどう伝えるか整理整頓する
⚫︎ 言語化・視覚化して道筋を示す
⚫︎ 魅力や価値を具現化する


というところじゃないだろうか。

意外とクライアント側でも、何か作るものが決まっていないと相談できないんじゃないかって思うかもしれないけど、実は、コンセプト開発やネーミングなど、事業開始や変革期に必要なふわっとした物事の整理や方向性づけ、言語化・可視化も得意分野なので、デザイナーが入るとプロジェクトが良い方向に進むと思うんだよね。テトラトーンでも実績の画からだけでは見えないそういった部分に数多く関わってきているし。

次回はそれぞれを簡単に説明してい行こうと思うよ。

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